模写する

 

身体の零度 三浦雅士

 

本書はタイトルの通り、「近代」という時代の成立の根源を、身体性の問題から探るもの。今日様々な形で論じられる「身体性」の問題を、「文明批判」「文化批判」といった切り口から。歴史的な観点に定位して取り上げられている。タイトルからも推測されるようにポストモダンの思想を背景に踏まえているものであるが、論旨は明快、論述はむしろ古典的で手堅いもの。豊富で適切な実例の

定時(文学作品からの引用、歴史的な文献からの引用など、うならせるものがある)と、念入りな先行論文の引用によって、こうした主題にあまりなじみのない読者も、十分楽しめ、また考える内容となっており、「身体論」を考える上でのかなり上質な入門書となっている。「身体加工」「表情」「動作」「舞踊」と、身体論の基本的な問題を順番に論じていくが、その論考の定点となっているのが、「身体の零度」という主題。「裸で何も塗らず形を変えず飾らない人間の体」というものを、標準の人間の在り方として受け入れるという、この身体の零度の成立が、この近代というものを形ずけるうえで不可欠であったという洞察が示された後で、この近代の成立と引き換えに失われてしまった体の回復の試みが現代の舞踊の在り方の中に探られている。そして、そのごは?展開のふくらみを期待させる、刺激的な施策の試みである。