模写

確かにいまの時代の方が、普通なのかもしれない。高度成長、巨大な需要、バブルが異常だったのだろう。では、今の時代をどう生きるかは若者だけの課題なのか?

天井の電球を、反射している白くて丸いテーブルに、ガラス製の灰皿がある。フィルターに口紅のついた細長いたばこがその中で燃えている洋ナシに似た形をしたワインの瓶テーブルの端にあり、そのラベルにはブドウを口に頬張り房を手に持った金髪の女の絵が描かれてある。グラスに注がれたワインの表面にも天井の赤い灯りが揺れて移っている。テーブルの足先毛足の長いじゅうたんのめり込んで見えない。正面に大きな鏡台がある。その前に座っている女の背中が汗でぬれている。女は足を延ばし黒のストッキングをくるくるとまとめて抜きとった。

 

左横にある箪笥の上には、多くの本が無造作に積まれている。本が置かれていないスペースには、飲みかけの缶、灰皿代わりにしている吸い殻が詰まった貯金箱、クーラーのリモコン、財布、買ったまま放置されているのど飴、片側のレンズが外れた眼鏡、スーツ屋の会員カードが、何の法則もなく散らかっている。隣の机には新しいコンピュータが置いてあり、その前男が座っている。男はニット帽をかぶりディスプレイを覗き込みながら、キーボードをたたいている。ディスプレイの横には、化学や特許と書かれたファイルがいくつか立てかけてある。